来年春に出てくるIntelのCPUは45nmプロセスなのだそうです。プロセスルールというのが配線幅を差すのかトランジスタの大きさを差すのかよく判りませんが、いずれにせよえらい小ささです。Cu-Cuの金属結合距離は2.56Å。Si-Siの単結合距離は2.35Å。45nm=450Åには、原子が200個くらいしか並べられない事になります。集積回路の設計は大変に複雑で、線幅だけでは議論はできないのでしょうが、原子一個だけのサイズでは半導体にならないのもまた当然でしょう。バンド構造にならないんだから…深さ方向は無限系だからいいのかな?
ま、とりあえず今風のトランジスタを作るのにタテヨコ原子十数個分のスペースが必要だと勝手に見積ると、プロセスルール3~4nm位で今の半導体の限界が来るわけですね。現状の1/10の線幅が物理的な限界だと思うと、それは意外に近い気がします。この場合載せられる回路の数は現行の100倍です。全部メニイコアに廻して、今と同じ性能のCPU100個分。動作周波数と命令実行効率で10倍稼いだとして、暴論は承知ですが1CPUあたり現行の1000倍の性能が物理的なCPUの限界という事になります。
さて、今地球上にある最も高速なコンピュータは、アメリカはLawrence Livermore National LaboratoryにあるBlueGene/L。64筐体、65536ノード、CPU131072個がビルの一フロアを占拠する巨大なシステムです。これ以上ノードの数を増やすのは保守の面で現実的でないでしょう。という事は、BlueGene/LのCPUを全て上記のCPUに置き替えたシステムが、現在の方法論で作れる史上最高の計算機という事になります(記憶装置の容量や通信にかかる遅延時間は問題にならないものとします)。
たかだか1000倍。
構造解析とか気象シミュレーションとか、メッシュを切って何か計算する場合、だいたい計算量は系のサイズkの3乗に比例するでしょう。サイズが10倍になるだけで計算量はもう1000倍。分子軌道計算はかなり重い種類の数値計算だと思いますが、Hartree-Fock計算ならkの4乗。電子相関が入れば簡単にkの6乗とかになります。サイズ4倍でもうアウトです。コンピュータの進歩によっては、数値計算できる系の限度はそれほど大きくならないわけです。プログラムのチューニングはもちろん強力な武器になりますが、4乗とか6乗とか階乗とかには本質的に歯が立たないでしょう。Full CIを素直に解ける系の大きさはケイ素の原子間距離によって決ってしまっているのです。それも、意外に小さく。
という事で、計算機の進歩によって計算できる系が大きくなるのを待つのではなく、物理的に筋の良い近似法なり新しい理論を作ろうとする方がみんな幸せになれるのではないかと。ニュートン力学はもちろん大事だけど、統計力学や熱力学ってやっぱり凄いよね、ということを思ったのでした。
追記1
コンピュータの性能が現行の1000倍で頭打ち、というのはかなり適当に数値をあてはめていますので、定量的にはほとんど意味がありません。ただ、現行のコンピュータの構造のままだとどこかで物理的に性能の限界が来て、しかもそれは意外と近い未来、というのは多分間違っていないと思います。多分そのへんで光素子とか分子コンピュータとか出てきて、また限界が遥か遠くに行くのではないかと。量子コンピュータの方がカッコいいですが、あれは数値計算できないので…
追記2
モンゴルとも近況報告とも何ら関係ありませんが、たまにはこういうのもいいかと。
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